ジレンマ

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 東京で8年間生活する中で、自分の作品のテーマや方向性を明確に見出すことができていたため、もう東京にいる必要はない、物価の安い福岡で生活しようと考えました。

 私の兄もデザイン関係だったので、兄と私で小さなデザイン会社をスタート。兄が営業、私が制作という役割分担でした。

 デザイナーといえば、今でこそ横文字職業の代表になっているようですが、当時は何の職業だかなかなかわかってもらえません。請求書に「デザイン料」という項目を書けず、印刷代の中に組み込んで請求する、という状態でした。

 私は仕事を始めたときから、デザインの仕事はあくまでも油絵を描くためのもの、と考えていました。昼はデザインの仕事をして、夜は油絵を描こうと思っていたのです。

 ところが実際に仕事を初めてみると、昼のデザインの仕事がどうしても終わらず、夜中まで食い込んだり、ときには徹夜で仕事をこなす日も少なくはありませんでした。やっとのことで仕事をこなしていても、もらえるギャラはスズメの涙程度で、忙しさにもかかわらず、お金がほとんど残らないという状態が続いていました。

 何より我慢できなかったのは、お金ではなく、仕事に自分の貴重な時間を取られてしまい、大好きな絵を描く時間が全く取れなくなってしまったということです。絵を描くためにデザインの仕事を始めたのに、絵が描けないー。本末転倒もいいところです。

 「このままではダメだ」と思い、いろいろな収入源を探しているときに、両親から紹介されたのがX社というネットワークビジネスです。自分の好きな時間に働けて、一生収入を得ることができる可能性のある権利的収入のビジネスと聞きました。

 「これなら絵と両立できる!」そう思いました。ところが実際にビジネスを始めてみると失敗の連続で、いつまでたってもうまくいきません。そのうちに、成功しているアップラインから、「君はこの仕事が向いていない」と戦力外通告を宣言されてしまいました。

 悔して理由を聞くと「だって、クラいから……」。

 そうです。X社のビジネスを始めた頃、私はとてもネクラでオタクな青年でだったのです。

 それまでの8年間、ずーっと部屋に引きこもって絵を描いていた私には、他人とのコミュニケーション能力が全くありませんでした。他人としゃべるとか、世話話をするということが全くダメで、絵のことしか話せない。好きな音楽や絵のことはいろいろと話せても、普通の会話ができない青年だったのです。