最初の決断。

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 私は、中流のごく一般的な家庭に育ちました。

 父は高卒でしたが、学歴偏重社会の中でどんどん大卒の同僚が自分を抜いて出世していくのを見て、子どもたちには何とかいい大学を出てもらいたいと思ったようです。

 財閥系のグループ会社に勤務していた父は、「これから流通の時代だ、商社に行けばまず間違いない」からと、私を同じ系列の大手商社に入れたいと考えていたのです。
 
 そのために、私は一流大学を目指して一生懸命勉強し、福岡県の進学校に入ることができました。

 しかし高校生になり、よくある自我の目覚めで、世の中の普通の歯車に収まるのは嫌だと思い始めた私は、ミュージシャンになりたいとギターを覚えて歌の勉強を始めようとしました。ところが、全く思うようにいきません(笑)。

 そんなとき、先輩の手伝いでたまたま描いていたイラストを見た父親に、「お前は音楽より絵のほうが向いているんじゃないか」と言われ、「そうか、その手があったか(笑)」と思い、高校の美術の先生に相談してみたのです。

 その先生が「画家として生活していくのは難しいかもしれないが、デザイン科なら大丈夫なのではないか」とアドバイスをくれたので、私は美大のデザイン科を受験するための勉強をスタートしました。

 しかし、デザインを学べば学ぶほど、何か物足りない気持ちになってきました。もっと奥の深い、自分自身を実現できるものをやりたいと思うようになってきたのです。

 そこで出会ったのが油絵でした。とはいえ、もう受験直前、急遽、油絵で美大を受験したものの、それまで油絵など描いたこともなかったのですから、合格するはずがありません。

 それでも本格的に油絵を勉強したいいう思いは強く、上京してアパートを借り、美大の油絵科を目指しながらひたすら絵を描きつづけました。その努力が実り、武蔵野美術大学の油絵科に合格、在学中は絵に没頭する日々を送ることができたのです。